【報道1930】

安倍元総理『国葬』保阪正康氏が見た“3つの問題”

  TBSテレビ 2022年9月28日(水) 15:00

安倍元総理『国葬』保阪正康氏が見た"3つの問題"【報道1930】
 
 世論調査では過半数が反対する中、9月27日、故・安倍晋三氏の国葬が執り行われた。
戦後の国葬は、吉田茂元総理以来2例目、55年ぶりだった。
この国葬は岸田総理の判断によるものだが、法的根拠もなければ、国会で是非を議論
することもなかった。
そもそも番組のニュース解説・堤伸輔氏は岸田総理の"説明"にあきれていた。
岸田総理は「国葬はその時々の政権の判断で行う」と説明したが、そんなあやふやな
ものではないと堤氏は言う。
そして、今回の国葬実施は歴史的に大きな問題点をはらんでいたというのが、昭和史研究
の第一人者、保阪正康氏だ。
 
■「これは独裁者のやり方じゃないか・・・」
昭和を中心に近現代史を研究するノンフィクション作家、保阪正康氏は、岸田総理が
踏み切った今回の国葬には、3つの問題があるという。
即ち、「私物化」「反歴史性」「総理の業績」だ。
一つずつ聞いた。

保阪正康氏
「安倍さんが凶弾に倒れ、すぐに首相としての決断で国葬を決めた。
まず決めることが先にあって、あとからそれを正当化、法的にも国民世論的にも"追認"
という形でやろうとした。
それが全部失敗した。
法的にも根拠が乏しいと今も言われていて、それを認めなければいけないのが現実。
何よりも野党も説得していない、立法府の議決も得ていない。
完全に私物化した形で国葬を決めている。
これは独裁者のやり方じゃないか、という不快感、懸念が世論に広まっている。
これについて岸田さんはきちんとした答えをしていない。
いくつか理由を並べているが、説明になっていない」

吉田元総理の国葬も門下生である当時の総理・佐藤栄作氏が、功績に報いるべきだと即決した。
これも"佐藤栄作の私物化"のようなもの、と指摘しながらも保阪氏は付け加えた。


保阪正康氏
「佐藤さんは十分に根回しをした。
野党も説得して、いろんなところに"これは例外的だけど"って言って説いて回った」

加えて、吉田の業績を内外、もしくは後世に知らしめるため『回想10年』(全4巻)を刊行し
たり、外務省と働きかけノーベル平和賞に推す動きをしたり、業績を英文化して
ブリタニカに本を書かせたり・・・。
吉田の功績を遺す努力をしている。

同じ私物化でも岸田総理のそれとは全く違うという。
■安倍さんがよく言う"押し付け憲法"という言葉は、憲法を作るために尽力した人たちを
侮辱している次の問題点、「反歴史性」について…。

保阪正康氏
「戦前は国葬令があって皇族は国葬と法律で決まっていたが、それを除いて見てみると…。
岩倉具視に始まって、伊藤博文、山縣有朋など明治維新の功労者ですね。
それで戦前最後の国葬は山本五十六。
明治維新以降の軍事主導体制が、軍事によって終わるわけですが、山本は最後の軍事である
太平洋戦争の象徴ですよね。
つまり山本五十六の国葬によって近代の歴史的なタームがここで終わるわけです」

保阪氏によれば、国葬は、ひとつの歴史の転換点にあったという。

保阪正康氏
「戦後、国葬令はなくなって、国葬は吉田茂元総理だけなんですが、やっぱり占領政策の中
で日本の国益を守った。
占領から独立への昭和20年代の殆どで政権を担った…(中略)
岸田総理は記者会見などで安倍さんの功績は長期政権だとか、戦後レジュームの見直しとか
言ってますね。
僕はここに反歴史性が潜んでいると言ってるんです。
吉田茂が作ってきた日本というのは軽武装、経済復興。
それから憲法を作った。それが戦後体制です。
今に至るわけです。
安倍さんはそれを憲法の見直しといって否定しているわけです。
批判ではなく否定してるんです。安倍さんはよく"押し付け憲法"って言いますね。
これは吉田茂や昭和天皇や色んな人達が憲法を作るために尽力したことをいかに侮辱
しているということを理解していないと思う。
戦後レジュームを見直すのも憲法を改正するのも結構ですが、もっと礼節を持った言葉で、
礼儀をわきまえるべきだと思いますね。
(中略)こういう人を国葬にするということは、戦後からの現代史77年が、吉田茂の否定で
終わってしまう」

保阪氏は、憲法改正に反対しているわけでも、吉田茂を信奉しているわけでもなく、あくまでも
礼節の問題を語っていた。
確かに安倍氏は、総理でありながらヤジを飛ばしたり、演説の観衆を"あんな人たち"呼ば
わりしたり、礼節や品格では褒められる存在ではなかった。

保阪正康氏
「乱暴な言葉でいかに先達を傷つけているか、安倍さんの無神経さが問題だと言っている
のに、岸田さんはその安倍さんを国葬で送ることで追認しちゃったんです。
(中略)反歴史性というのはこのことを言っている。
あなた方の大先輩が作って来た体制を崩壊せしめるようなことを言っている無礼さに国葬で
報いるという反歴史的な失礼さを自覚しなさい、と」

■「安倍さんの業績はきちんとした果実になっていない」
問題点3つ目は「総理の業績」だ。
国葬では岸田総理が安倍氏の業績を羅列したが、保阪氏は「自分で書いた文章じゃないこと
が感じられて伝わってこなかった」と酷評した。
特に国葬の場では当然安倍氏の業績を礼賛する言葉が並べられるが、そのなかで外交に
ついての功績を称えるものが多かった。
しかし、保阪氏は言う。
 

保阪正康氏
「安倍さんがプーチンと27回会ったことが業績のように言われていますが、プーチンが
ウクライナに侵攻したらすぐに飛んで行って"あなた、こういうことやっちゃいけないんじゃない
ですか"って、ひざ詰め談判をしたなら、安倍さんって凄い人だなって見直したかもしれない。
でも安倍さんは、これを利用して核の共有論を持ち出した。
発想が違うんじゃないかって思う。業績がきちんとした果実になっていないことを
証明している。
残酷な言い方ですが、安倍さんの政治的業績って何ですか、と私たちは問い直さなければ
ならない。
むしろマイナスの方が多いんじゃないかっていう思いが国葬の反対に結び付いたと思う」

以上の3つの問題点は、この時代に生きている私たちの責任だと保阪氏は言う。

保阪正康氏
「10年後20年後、この人を国葬にしたことを私たちは認めたとなってしまう。
だから私たちは認めていないということを歴史的なアリバイとして残す必要があると思います」

歴史は今回の国葬をどう伝えるのだろうか?
問題は岸田総理が、そこまで深く考えて国葬を持ち出したとは思えないことだ。
 

ジャーナリスト 後藤謙次氏
「(安倍さんが非業の死を遂げた直後)岸田さんはあの時の国民世論、献花の長蛇の列、
安倍さんの死を悼む雰囲気、自分も当選同期で非常に深い友情がある、さらに安倍さんの
後ろには岩盤支持層がいる。
ここで国葬を決めることは、自分の政権運営にとって非常にプラスになるんだという判断が
働いたんだと思う。
国民よりも自分は一歩前で決断している。
その決断力を誇らしく思っていたんでしょうね。
それが逆風となり、後付けで説明しているうちにアリ地獄に・・・。
まぁ周りを含めてこの問題に真摯に取り組んだ形跡は見えないですね」

(BS-TBS 『報道1930』 9月27日放送より)




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